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広島地方裁判所福山支部 平成8年(ワ)310号 判決 1998年3月06日

主文

一  原告の本訴請求及び参加人の反訴請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用については、原告及び参加人に生じた費用の各五分の一並びに被告らに生じた費用の全部を原告の負担とし、原告及び参加人に生じた費用の各五分の四を参加人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求める裁判

一  原告

1 原告が平成七年六月二一日広島地方裁判所福山支部平成七年(フ)第一四四号破産事件において破産宣告を受けた丁原プラント株式会社に対し左記の破産債権を有することを確定する(本訴)。

金二億五九三四万二二九〇円

但し、原告が平成七年七月一二日丁原プラント株式会社の株式会社山口銀行に対する平成五年五月二一日付金銭消費貸借契約に基づく借入金残債務金二億七〇〇〇万円を代位弁済したことにより取得した求償金債権の残額として

2 参加人の反訴を却下する。

3 (右2が容れられない場合)

参加人の反訴請求を棄却する。

二  被告ら

原告の本訴請求を棄却する。

三  参加人

1 原告の本訴請求を棄却する。

2 原告は、参加人に対し、金一億三〇六三万七九九〇円及びこれに対する平成七年八月二〇日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え(反訴)。

第二  事案

一  概要

1 破産債権確定請求(本訴)

原告が破産宣告を受けた丁原プラント株式会社(以下「破産会社」という。)の借入金債務を代位弁済したことによる求償金債権二億五九三四万二二九〇円を破産債権として届け出たのに対し、被告らが債権者として債権調査期日において異議を述べたことによる破産債権確定訴訟である。

2 共同訴訟参加

破産会社の債権調査期日において原告の前記破産債権届出に対し異議を述べた破産管財人が原告と被告らの間の破産債権確定訴訟に原告の請求棄却を求めて共同訴訟参加したものである。

3 反訴

破産会社の破産管財人である参加人が原告に対し破産会社が原告から請け負ったトーアスチール向冷却床工事の未払請負代金一億二六八三万三〇〇〇円及び消費税三八〇万四九九〇円の合計金一億三〇六三万七九九〇円並びにこれに対する工事完成・引渡しの日から六〇日以上経過した平成七年八月二〇日から支払済みまで下請代金支払遅延等防止法所定の年一四・六パーセントの割合による遅延利息の支払を請求するものである。

二  前提事実(争いがない)

1 破産会社の借入れ並びに原告の連帯保証及び代位弁済

破産会社は、株式会社山口銀行から平成五年五月二一日付金銭消費貸借契約に基づき三億円を借り入れた。原告は、前記金銭消費貸借契約に際し、株式会社山口銀行に対し、破産会社の借入金債務を連帯保証した。破産会社は、平成七年六月一九日、広島地方裁判所福山支部に対し破産申立てをしたため、前記金銭消費貸借契約の約定により期限の利益を喪失した。原告は、平成七年七月一二日、株式会社山口銀行に対し、前記金銭消費貸借契約に基づく破産会社の残債務二億七〇〇〇万円を代位弁済した。

2 平成七年六月二一日、破産会社は広島地方裁判所福山支部において破産宣告を受け、参加人が破産管財人として選任された。

3 原告は、平成七年七月二一日、広島地方裁判所福山支部に対し、前記代位弁済金二億七〇〇〇万円から破産会社に対する工事請負代金債務金一〇六五万七七一〇円による相殺分を差し引いた残額金二億五九三四万二二九〇円を破産債権として届け出た(以下「本件届出債権」という)。

4 原告の本件届出債権に対し、被告らは、平成七年一二月一九日の債権調査期日において、破産会社に対する破産債権者として異議を述べ、参加人は、右期日においては認否を留保したものの、平成八年九月三日の債権調査期日において異議を述べた。

三  破産債権確定請求に対する被告ら及び参加人の主張

1 「ディープロックの法理」ないし信義則違反

(一) 別紙「被告らの主張」一のとおり

(二) 信義則違反

原告は、破産会社が倒産する二年以上前からタイミングを計り、周到に用意して破産会社を計画倒産させた。

よって、原告の本件届出債権の行使は信義則に反し許されない。

2 相殺

(一) 損害賠償請求権による相殺

別紙「被告らの主張」二のとおり

(二) 未払請負代金債権による相殺

(1) 破産会社は、平成五年三月末頃、原告からトーアスチール向冷却床工事をトンあたり六三万三〇〇〇円の重量単価で請け負った。

当初見込みの製作重量は一五〇〇トン相当(受注金額合計九億五〇〇〇万円・税別)であった。

そもそも大型プラントの設備工事を請け負う場合には、まず重量単価を決め、これに当初の予想重量を乗じて算出した本工事価格で一応契約するが、実際に工事重量が確定した段階で実際の工事重量に対し先に決めた重量単価を乗じて最終工事代金総額を算出し、当初の契約代金である本工事代金との差額を追加工事費として精算するのが業界の慣行であった。破産会社の原告からの従前の請負代金についても同様の契約処理によって精算されてきており、右トーアスチール向冷却床工事も右慣行に従って契約された。

(2) その後、破産会社が請け負った右工事の最終設計重量は、追加工事を含め二一〇〇トンとなったから、工事代金は合計一三億二九三〇万円となった(六三万三〇〇〇円×二一〇〇トン)。これに対し、破産会社が原告からトーアスチール向冷却床工事の請負代金として支払を受けたのは合計金八億四三四〇万円(税別)に過ぎない。そして、契約後に請負項目から外されてメーカーヘの直接注文となった購入品(一億八九〇六万七〇〇〇円相当)及び据付(一億七〇〇〇万円)の合計三億五九〇六万七〇〇〇円を含めたとしても、原告の支払額は一二億〇二四六万七〇〇〇円(税別)にとどまる。

したがって、原告が破産会社に支払うべきトーアスチール向冷却床工事の請負代金のうち一億二六八三万三〇〇〇円及びこれに対する消費税三八〇万四九九〇円の合計一億三〇六三万七九九〇円が未払となる。

(3) 更に、原告が右トーアスチール向冷却床工事の請負代金として支払ったものの中には別工事の請負代金合計一億円が含まれているから、原告のトーアスチール向冷却床工事の未払請負代金は、前記一億二六八三万三〇〇〇円に一億円を加えた二億二六八三万三〇〇〇円となる。

(4) よって、被告らは債権者代位権に基づき、参加人は破産会社の破産管財人として、破産会社の原告に対する右未払請負代金債権を自働債権とし、原告の本件届出債権に基づく配当請求権を受働債権として、対当額で相殺する。

なお、破産会社の破産財団を形成する財産は平成九年一月末現在で約一億七〇〇〇万円であるのに対し、届出破産債権総額は、本件届出債権を含めると合計一七億五八九五万九八三六円であるから、破産管財事務処理費を控除しなくとも、原告に対する配当額は二四八九万円を上回ることはない。

仮に原告の配当請求権に対する相殺が認められない場合には、原告の本件届出債権を受働債権として、対当額で相殺する。

四  三に対する原告の認否・反論

1 「ディープロックの法理」ないし信義則違反について

(一) 「ディープロックの法理」について

原告と破産会社は商法上の親会社・子会社の関係にはなく、被告らの主張は、単に講学上の議論であり、本件においては妥当せず失当である。

(二) 信義則違反について

計画倒産とは原告のいかなる行為を指すのか具体的事実が明らかにされていない。

そもそも計画倒産の正確な意味を理解しないまま漫然と抽象的に計画倒産と主張しても無意味である。

原告は、破産会社との間で、破産会社の事業運営、資金繰り等将来発生することが予想される事態をあらゆる角度から数字的に検討していたにすぎない。

すなわち、大規模プラント工事を請け負う原告としては、工事を支障なく完成させなければ、甚大な被害を被るおそれが多分にある以上、工事の円滑な進捗を図るため必要と認めれば破産会社に資金的援助等をしなければならないから、原告の下請である破産会社の経営状態を十分調査把握しなければならないことは当然である。

破産会社が倒産して損害をこうむるのは原告であって、原告が破産会社を計画倒産をさせることはありえない。

2 相殺について

(一) 被告らによる相殺の主張について

本件は破産債権確定訴訟であるから、本件届出債権の存否に限定して主張反論がなされるべきである。また、破産会社の債権を行使することは破産管財人の専権に属し、被告ら破産債権者が債権者代位権に基づいてこれを行使することはできない。

よって、被告らは、破産会社の原告に対する反対債権による相殺を主張することはできない。

(二) 損害賠償請求権による相殺について

すべて否認する。被告らの主張は証拠に基づかない憶測である。

(三) 未払請負代金債権による相殺について

原告が破産会社に対しトーアスチール向冷却床工事を発注したこと、その代金として原告が破産会社に支払った金額が八億四三四〇万円であることは認めるが、その余は否認する。

原告の破産会社に対する右工事代金は全額支払済みである。

五  反訴の適法性について

1 原告の主張

以下の理由により、参加人による本件反訴は不適法である。

(一) 反訴提起ができるのは被告らのみであり、参加人は反訴提起できない。

(二) 参加人の反訴は、その請求の内容が原告の本訴請求の内容と全く別個のものであり、本訴との牽連関係がない。

2 参加人の反論

(一) 参加人は、債権調査期日において本件届出債権に異議を述べたのであるから、本件届出債権の破産債権確定訴訟において被告適格を有し、反訴も可能である。

(二) 参加人は、原告の本件届出債権に対し破産会社の反対債権をもって相殺する旨の主張をしているから、更に進んでその反対債権について反訴を提起することもできる。

(三) 原告は、参加人の反訴提起に対し、平成九年八月一一日付で異議なく応訴しており、仮に問題があるとしても既に治癒されている。

六  反訴請求原因について

1 参加人の主張

前記三2(一)(1)及び(2)の事実関係に基づき、前記一3のとおり請求する。

2 原告の認否・反論

前記四2(三)のとおり

第三  判断

一  「ディープロックの法理」ないし信義則違反について

1 「ディープロックの法理」について

被告らは、本件届出債権に対し、会社の倒産手続上支配株主や親会社の権利を一般債権者の権利よりも劣後的に扱うものとする米国の法理論(「ディープロックの法理」「ディープロックの理論」と呼ばれるもの)の適用を主張するが、我が国の破産法上、右法理論と同旨の規範を直接根拠づける条項はなく、むしろ明文上規定されている優先破産債権、劣後的破産債権及びその他の一般破産債権の区別を除くと、各同順位の破産債権は平等に扱うものとされているから(破産法四〇条)、本件届出債権に対する右法理論の適用をいう被告らの主張はそれ自体失当というほかない。

もっとも、右法理論の背景にあるとされる(公平(衡平)の原理」は我が国の破産手続においても妥当するものであって、形式的には一般破産債権者とされる者であっても、破産者との関係、破産者の事業経営に対する関与の仕方・程度等によっては、破産手続上他の一般破産債権者と平等の立場で破産財団から配当を受けるべく債権を行使することが信義則に反し許されない場合もあるというべきであり(民法一条二項)、被告らの主張も論旨全体からすると右の信義則違反をいうものと解することができる。

2 信義則違反について

(一) 本件届出債権の行使が信義則に違反するとの被告ら及び参加人の主張の根拠は、被告らが別紙「被告らの主張」二において破産会社の原告に対する損害賠償請求の発生根拠として主張する事実関係をも含めると、以下のとおり要約される。

<1> 原告は、破産会社に対する仕事の発注、与信、人員派遣、経営報告の徴求及び会計監査などを通じてその経営を事実上支配していた。

<2> 原告は、プラント事業による損失を破産会社に押し付けて破産会社を経営危機に陥らせながら、資金貸付、債務保証、更には請負代金の前渡しによって破産会社の延命を図る一方、自らの信用を背景にして多くの債権者に破産会社振出の約束手形を受け取らせた。

<3> 原告は、破産会社をして、過剰な設備投資や能力以上の工事受注をさせて資金繰りを悪化させた上、それを補うために更に採算を度外視した工事を受注させた。

<4> 原告は、自社の株式上場に備えて不良債権の存在を糊塗するため、破産会社をして粉飾決算をさせ続けた上、倒産の直前に原告保証の銀行債務の内三〇〇〇万円を弁済させた。

<5> 原告は、受注した工事を破産会社に下請けさせる際、自社の利益は確保しつつ、破産会社に対しては十分な支払をせずに損害を与え続けた。

<6> 原告は、年間三六〇〇万円以上の交際費を破産会社に肩代りさせていた。

<7> 原告は、破産会社が融通手形を操作していたのを知りながらこれを放置していた。

<8> 原告は、破産会社が実際に倒産する二年以上前から倒産のタイミングを計り、周到に用意して破産会社を倒産させた。

(二) そこで検討するに、《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告は、各種工業製品の売買、機械器具設置工事請負等を事業内容とする株式会社である(訴状添付の商業登記簿騰本)。

一方、破産会社は、資本金一〇〇〇万円、従業員約三〇名の各種プラントにおけるライン機器の製造・据付等を事業内容とする株式会社であったが、故甲田梅夫社長以下その親族が大株主であるとともに役員の地位を占めるいわゆる同族企業であり、原告との間に資本関係はないが、昭和六三年九月に原告との間で取引基本契約書を取り交わし、以来倒産に至るまで原告が受注したプラント工事等の下請けを主たる業務とし、総売上高の八割以上を原告からの受注でまかなっていた。

(2) 破産会社は、その原因は必ずしも明らかではないが(被告らは、原告がプラント事業による損失を破産会社に押し付けたと主張するが、その立証は十分でない。)、遅くとも平成元年以降ほぼ毎期継続して損失を出し、その累積額は平成五年一月時点において既に四億円を超えていた。その後、平成六年一月期の決算で九〇〇万円弱の利益を出したものの、平成七年一月期には更に五〇〇〇万円以上の損失を出し、累積損失は四億五〇〇〇万円に達したが、損益計算書上は平成七年一月期に四〇〇〇万円以上の当期利益を計上するなど、粉飾決算の疑いが持たれている。

また、破産会社は、資金繰りの面でもすでに平成四年一月には行き詰まる気配にあり、同年三月時点ではその後一年間の業績次第では倒産に至る可能性もあるというのが破産会社関係者の認識であったところ、平成五年一月には翌月の支払が危ぶまれ、原告に対し貸付金の返済猶予を要請せざるを得ない状態に陥っていた。

(3) 原告は、破産会社に対し、平成四年頃に一億三〇〇〇万円を貸し付けたほか、平成五年以降も工事前渡金や貸付金として資金提供をしたり、破産会社が金融機関から借入れをする際に保証人となるなどして多額の与信を行う一方、遅くとも平成四年頃から継続的に破産会社にその経営状況を報告させ、更に、平成五年五月には破産会社の債務保証をするにあたって、それ以後は原告福山事務所長の戊田竹夫(以下「戊田」という。)を通じて破産会社の資金繰り等を含めた経営全般を管理する方針を固めた。

そして、現に戊田は、破産会社の事務所に自分の机を置かせ、破産会社の故甲田梅夫社長や他の従業員に対し直接指示を与えたり、破産会社の経理を決裁するなどしていた。

他方、原告は、遅くとも平成五年九月頃には、破産会社における前記のような損失の累積を把握し、受注済みの工事の進行予定に沿った破産会社の資金繰り予測を立てることによって、破産会社がその後も慢性的な支払資金の不足状態から脱却できないことを認識しつつ、右工事の完成に支障が出ないよう破産会社の倒産のタイミングを計るとともに、破産会社の倒産による原告への影響を検討していた。

その一方で、戊田らは、破産会社の外注先に対し、原告において支払を保証するかのような言辞を用いながら後日不渡りになる破産会社振出の約束手形を受け取らせていた。

(三) 右認定事実によれば、原告は、資本関係では破産会社の親会社には該当しないものの、破産会社を自社の専属的下請企業とし、平成五年以降は資金面においてもこれを全面的に支援していたのみならず、同年五月以降はその経営全般を管理支配する一方で、破産会社の経営がすでに危機的状態にあり、倒産が不可避であることを認識しながら、受注工事の継続という自社の都合から破産会社の延命をはかる間、外注先に破産会社振出の約束手形を受け取らせて損害を与える結果となったものと認められる(参加人の主張する「計画倒産」の意味は必ずしも明らかではなく、また、原告が故意に破産会社の倒産の原因を発生させたとまでは認められないが、倒産のタイミングを計っていたという限りでは破産会社を「計画倒産」させたと言えなくもない。)。

このような事実関係に照らすと、他の一般破産債権者の届出債権さえ満足させることのできない破産財団から原告が他の一般債権者と同等の立場で配当を受けるべく、本件届出債権を行使することは信義則に反し許されないというべきである。

3 よって、本件届出債権の確定を求める原告の請求は、これに対する被告ら及び参加人のその余の主張について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。

二  参加人の反訴について

1 反訴の適法性

(一) 参加人による反訴提起について

参加人は、本件届出債権に対し平成八年九月三日の債権調査期日において異議を述べたのであるから、本件届出債権の破産債権確定訴訟の被告適格を有するところ、右債権調査期日以前に提起された本件債権確定訴訟においては被告とされなかったため、後日被告側に共同訴訟参加したものであるが、これにより参加人は本件債権確定訴訟における共同被告の地位を得たものと解され、したがって、原告の本訴に対し反訴を提起できる地位にあることは明らかであって、この点に関する原告の主張は採用できない。

(二) 本訴との牽連関係について

本件反訴は、参加人が本訴である本件届出債権の確定請求に対する防御方法の一つとして提出していた相殺の抗弁にかかる未払工事代金債権を請求内容とするものであり、右本訴との間に牽連関係があることは明らかである。

よって、この点に関する原告の主張も採用できない。

2 未払請負代金の存否について

原告が破産会社に対しトーアスチール向冷却床工事を発注したことは争いがない。そして、関係証拠によれば、右工事の破産会社に対する当初発注金額が九億五〇〇〇万円であったこと、右金額は製作重量を一五〇〇トンとし、一トン当たりの単価を六三万三〇〇〇円として算出されたものであること、右工事の設計重量が最終的に約二一〇〇トンとなったことは認めることができる。

ところで、《証拠略》によれば、原告が日本鋼管株式会社から本件トーアスチール向冷却床工事を元請として受注した金額は原契約分一〇億円と追加分二億六四〇〇万円の合計一二億六四〇〇万円(税別)と認められる(甲二〇によると、乙一五の四の注文書の二億三〇〇〇万円はフロリダスチール向冷却床工事分である。)。これに対し、参加人の主張によれば、原告・破産会社間の最終請負金額は前記単価に最終設計重量を乗じた一三億二九三〇万円(税別)となり、原告の元請金額を上回ることになるが、元請業者が下請業者に発注する場合、その発注金額が元請金額を上回ることは通常あり得ないことからすると、参加人の主張は不合理というほかない。

また、たとえ当初発注金額が一定のトン当たり単価をもとに算出されたとしても、その後に契約内容の変更があった場合にまで当初の単価に最終的な製作重量ないし設計重量を乗じて得られる金額をもって最終請負金額とする旨の合意が、原告と破産会社との間で交わされていたことを認めるに足りる証拠はない。この点について、参加人は、右のような代金決定方法は業界の慣行であり、本件トーアスチール向冷却床工事も右慣行に従って契約されたと主張するがこれを裏付けるものはない。そして、本件トーアスチール向冷却床工事においては、前記のとおり日本鋼管株式会社から追加工事の注文があったほか、当初の予定を変更して、原告から破産会社を通さずに直接購入品の調達や機器据付の発注がなされており、当初契約後に契約内容の変更があったことは明らかである。

また、当初九億五〇〇〇万円で契約された本件トーアスチール向冷却床工事に関し、原告から破産会社に支払われた金額が八億四三四〇万円にとどまることは争いがないが、右のとおり予定変更により原告から破産会社を通さずに直接購入品の調達や機器据付の発注がなされた結果、破産会社の受注金額は約三億五九〇〇万円の減額となっているのであるから、追加工事分を考慮に入れても(破産会社における採算性の問題は別として)、右支払金額をもって最終請負金額に満たないと断定することはできない。

その他、参加人主張の本件トーアスチール向冷却床工事の最終請負金額を認めるに足りる証拠はない。

よって、右工事の未払請負代金を請求する参加人の反訴請求は理由がない。

三  結論

以上によれば、原告の本訴請求及び参加人の反訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐茂 剛)

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